<あとがき>
昨年末の、とある日。須田氏から依頼され、僕は取材の為、 Au Petit Bouchon (オ・プティ・ブション)に。
お店につくと、まず、前面が開くファサード(正面)に目が行く。
全開したファサードからは暖かな照明の光と共に、お店の中の活気が溢れ、僕はすぐに心が躍る。

お店の各部分を撮影していると、須田氏から、棚を撮るように指示をうける。
お客さんのテーブルの上の棚。普通ならば、そこを中心に見ようとはしない部分。
何かを見たときに、視界の片隅に入るくらいの場所だ。
そこには、本やお酒のビン、おもちゃなどがラフな感じで置いてある。

不思議に思っている僕に須田氏は言う。

「代々受け継いで、改装を繰り返すようなお店だから、
棚の上なんて、整理されてないんだよ」

須田氏の取材をしていて、いつも思うコトがある。
須田氏は「良い」と思う事を、迷わず、自信をもって
しっかりやっているのだ。

コンセプトイメージが「代々受け継いで〜」とはいっても、
新規オープンのお店だ。
そのお店の棚を整理はせずに、ラフな感じにするには、
大きな勇気が必要なのではないだろうか。

僕が見る限り実際に、この棚の効果は絶大。須田氏の感覚は見事に、お店に雰囲気を生む。

良いと思ったからやったのだ。迷わず、自信をもって、しっかりと実行した。
簡単そうで、簡単ではない。ことに「趣味」ではなく、「仕事」であるから、
考えなくてはならないコトは、たくさんある。
それでも、良いと思ったコトを1コ1コ確実に、須田氏は実行する。

取材から数日後、追加の写真を撮る事になり、須田氏といっしょに
このお店を訪れた時、オーナーから、こんな話を聞く。

「今日、老夫婦がご来店されたのですけど、話を聞いたら、
昔、フランスに住んでいたと言うのです。
散歩をしていたら、このお店が目にとまり、
懐かしい雰囲気に惹かれ、ついお店に入ったと言うんです」

良いと思ったコトを迷わず自信をもってしっかりと実行した結果だ。
ただ、須田氏にとっては、これが普通のコトだから、自分では無意識で気が付いていないかもしれない。

「調べながら工事を進めているうちに、新たな発見などもあって、勉強になって、楽しく仕事ができた」
だから須田氏はこんな事を言うのだろう。

とにかく、1つ確実な事は、須田氏の施工した雰囲気が、
1組のお客様とお店をつないだ、という事だ。

よこちしんや